まずは先物取引を知ろう
商品先物取引を知るためには、まず先物取引を知らなくてはなりません。
商品先物取引は先物取引の一種なので、これを知っておかない事には、商品先物取引を理解する事は困難でしょう。
そこで、まずは先物取引について触れていきます。
先物取引というのは、商品先物取引所が、扱っている商品についての売買を行う取引です。
簡単に言えば、お店に売っている物を買うのと基本的には変わりません。
もし八百屋で1万円/1kgで買った、"とうもろこし"を、知り合いに1万2千円で売ったら、2千円は儲かるのは誰でも理解できると思いますが、それを複雑にした物の金融取引のひとつが、先物取引といえます。
先物取引って未来への約束?
上記の例のような取引は、「実物取引」といいます。
リアルタイムの値段で売買を行い、その商品とお金を交換するのが実物取引です。
しかし、先物取引というのは、その場での交換をする取引ではありません。
簡単に言ってしまうと、先物取引とは、「支払いの金額とモノの受け渡しをする日付を事前予約しておくこと」です。
事前に予約をしておいて支払う値段を決めておけば、その後どれだけ価格が値上がりしたとしても、モノの受け渡し日には予約した時にそれだけで物を買うことができます。
反対に販売側にとっても予約を事前に受丿付けることで、あらかじめ販売量と売り上げを把握できるというメリットがあります。
例えば、製造業者は前もって必要な材料を予算の範囲内で確保できるのかどうかを心配しますし、まだ収穫時期になっていない作物を生産している農家は、収穫時にいくらで売れるのかといった心配をするものですが、こういった心配を解消する仕組みとして先物取引が存在するのです。
つまり、先物取引とは、「事前に予約しておく」という仕組みを利用した金融商品なのです。
先物取引と取引例
先物取引の取引例を挙げて見ましょう。
例えば、八百屋へ、"とうもろこし" を買いに行きます。
すると、お目当ての"とうもろこし"は現在品切れでした。
"とうもろこし"の値段は現在1kg 1万円ですが、近い将来相場が、1kg 9千円に下がるという話がありました。
ですが、それが本当かどうかはわかりません。
そして、八百屋の店主と話し合いの結果、一週間後にこの"とうもろこし"を1kg、9千5百円で買うという予約をしました。
その結果、一週間後にその相場は、1万円から変化せず、5百円安く買う事ができました。
少々乱暴な例えですが、これが先物取引です。
商品先物取引とは?
商品先物取引は、農産物、鉱工業材料などを対象商品として取引を行い、その値動きによる差額によって利益を得るというものです。
株取引が、会社の株価の上下動によって、あるいはFXが為替の変動によって利益が生まれるのに対し、この商品先物取引は、大豆やコーヒーなどの農産物、金やアルミニウムなどといった工業品の値段の上下動によって利益を得るというものなのです。
農産物や工業品を扱う事で、より身近な商品の価格変動を呼んでいく分、株や為替よりも簡単なように思えますが、実際には簡単ではないですし、かといって難しくもありません。
比較的安全に稼ぎやすいとはいえるものでしょう。
さて、商品先物取引というと、一般的に危ない、ハイリスク・ハイリターンな値動きが荒く怖い、ギャンブル的なものという悪いイメージが持たれています。
よほどプロの投資家でなければ手を出さないほうが良いといわれ、一般人にはとても遠い存在のものと考えられています。
それでは、なぜ商品先物市場は存在しているのでしょうか。
なぜ商品先物が存在しているか
さて、なぜ商品先物というものが存在しているのでしょうか?
ここでは、商品先物の存在意義について見ていきます。
ヘッジと商品先物
資本主義経済においては、誰でもご存知の通り私たちの身近なモノの値段は一定でなく、日々変動しています。
価格変動の原因は、流通事情や為替の変動、天候等による作柄の出来・不出来など様々な理由が、関係していますが、この価格変動によって、生産者やメーカー、流通業者、消費者が、思わぬ損失を被ることがあります。
そこで価格変動リスクに対する保険ニーズが発生します。
しかし、商品先物では、通常の生命保険等に見られる、多数の人が、保険をかけて、偶発的に発生する少数の人たちの損害を補償する制度では、ロス・レシオ(ロス率)が大き過ぎて保険自体が成り立ちません。
それは、価格変動リスク自体が、価格の値上がり、値下がり、特に値下がりでは、取引関係者の多くが損失を被るからです。
そこで考案されたのが、先物取引を活用したヘッジ(保険つなぎ)の手法です。
現物取引で買い付けたものは先物市場で売りつないで(売りヘッジ)おき、現物市場で売り付けたものは先物市場で買いつないで(買いヘッジ)おくのです。
そうすると、その後価格が変動しても、現物取引の損益と先物取引の損益は相反し、相殺されるので、価格変動リスクが解消されるのです。
ヘッジの例
たとえば、商品の生産者である農家が豊作を予想したとき、価格の下落を恐れ、現在の価格水準で利益を確保したいと考えて先物を売るのです。
予想通り豊作で価格が、下落した場合、商品からの利益は少なくなりますが、その分売っていた先物が利益を上げてくれます。
仮にもし、自由経済市場にこのヘッジ機能がなければ、抱え込んだ在庫が値下がりによりいつ損失を被るかわからないため、生産者や流通業者などは、夜もおちおち眠ることができなくなるでしょう。
意外と古い商品先物取引の歴史
商品先物取引の歴史は、意外と古かったりします。
最初に国内で商品先物取引が行われたのは、1730年、即ち江戸時代だといわれています。
世界初の先物商品取引所は?
まず、世界に目を向けますと、先物取引の始まりは、今から約480年も遡ります。
1531年にベルギーのアントワープに世界初の商品取引所が開設され、1568年にはロンドンのグレシャムに商品取引所が開設されたのが、世界初の先物取引と言われています。
江戸時代の先物取引の歴史
我が国では、江戸時代は、年貢も米で納めていたように、米が通貨同様の役割を果たしていました。
米が、日本経済そのものだったのです。
凶作になれば餓死するものが増えます。
豊作になれば円満にいくかと思えば、米の価値が下がるので米価建てで給料をもらっていた武士は貧困を極めることになるのです。
豊作・凶作にかかわらず米の価格を安定させるために先物取引が必要だったのです。
実は、1620年にはすでに、大阪の近くにある堂島の豪商淀屋が先物取引場として、米市場を開設していましたが、前述の通り、米の価格を安定させるために・・・そこで、1730年代に米将軍とも呼ばれる、TVの時代劇「暴れん坊将軍」でおなじみの8代将軍徳川吉宗の命を受けて大岡越前守忠助が米の先物市場(帳合米取引)として大阪「堂島米会所」を幕府公認のもと設立しました。
名奉行とされる大岡越前守忠助が、作り上げた制度は非常に優れたもので、現在の先物取引の骨格を網羅していました。
大岡越前守忠助と大阪の近くにある堂島取引市場に集まった米商人たちが、現代のデリバティブ(金融派生商品)産業を生み出したのです。
1848年に設立されたアメリカのシカゴ商品取引所(CBOT)は、堂島米会所をモデルとしたほどです。
コメ商人たちは米の売価が、生産コストよりも大きな振れ幅で変動するため、米商人たちの経済状況は極めて不安定になっていたのでした。
そこで、彼らは将来の決められた日付に、あらかじめ定まった価格で米を届けることを記す証書を書き始めました。
市場が進化するに連れ、実際に米を一切保有せずとも、証書だけを取引することが可能になりました。
さて、このように、およそ300年前に始められたたデリバティブ取引の先物取引ですが、2つの点において特筆すべきでしょう。
まず、先物取引が、事業の不安定を取り除きたいという、米商人の実需から生まれたこと。
そして、これらの取引を編み出したのが米商人であり、を行っている何年もの高等教育を受け、洗練されたコンピューターの収支予測モデルを持つ金融家ではなかったことです。
およそ300年前の米商人の金融イノベーションは米の生産という、現実に価値を生み出す経済活動に根ざしていたのです。
米商人は、いつの間にかグローバル経済の大半を支配し、それ自身が自己目的化した金融エンジニアリングの類ではなかったのです。
「現在のデリバティブトレーダーのうち、いったいどれだけの人が、自分が取引している商品のことを理解しているのだろうか?」
「ある企業から債券を買い入れ、それを商品先物や為替相場の変動に対してヘッジしようとする時、トレーディングを始めるよりも前に、原油を触ったり、実際にコーヒーなどの商品を触ったり、香りを嗅いだりしたり・・・・・彼らはその取引の原資産となっている有形の資産について考えることがあるのだろうか?」
「エクセルで収支予測を作ったり、パワーポイントで戦略プレゼンテーションを作ったりすることに没頭している経営幹部やコンサルタントがどれほどいることか?」
など、など、江戸時代の堂島取引市場に集まった米商人たちに思いを馳せると考えてしまわないでしょうか?
近代の商品先物取引の歴史
明治維新以後も、米の先物取引はずっと行われていきましたが、1939年、第二次世界大戦時に米流通統制が行われ、廃止しています。
商品先物取引自体は終戦後の1950年以降に再開されましたが、米の先物取引は未だに再開されておらず、その目処も立っていないのが現状です。
米は日本における最も主流な農作物であって、日本の食文化の象徴である事は、誰しもが認識している事です。
その米での取引がなされていないというのは、少々寂しいところですね。
商品先物取引が480年近く前から行われていた事には、多くの方が驚きを覚えるところでしょう。
ただ、取引という概念はその数百年、数千年前から行われていたので、農作物などの生活に根付いた物に対して価値の変動があり、それを利用して利益を得るという概念が16世紀のヨーロッパや我が国の江戸時代にあったとしても、それほど不思議ではないかもしれません。
こういったものは、科学の発展などとは違い、庶民でも行える工夫ですから。
現物価格と先物価格
商品先物取引では、商品を受け渡すことを前提に取引を行っています。
将来の一定時点で対象物の価格形成、を行っている(つまり取引)ほうを「先物」、目の前にあって、渡そうと思えば渡せるほうを「現物」と呼びます。
通常は、現物価格と先物価格は連動して動いています。
現物取引とは
現物取引と先物取引の大きな違いは、現物取引は、対象商品を直ちにまたは近日中に受け渡すということです。
また、取引所を介さない相対取引であるため、商品の品質や量、受渡しの諸条件も買い手と売り手の合意によって自由に決めることができます。
しかし、相対取引であるということは、将来、相手方あるいは自らに何らかのトラプルが発生した場合、契約不履行に終わるかもしれないというリスクを背負っています。
現物価格と先物価格の関係は?
現物価格と先物価格の関係は、連動しているといえます。
ここでは、純度99.99%の金を固めた金地金を例に見ていきましょう。
金地金のようにに腐ったり傷んだりしない現物の場合、保存しておくことによる価値の変動というのはありません。
つまり、現物の金の価格が上昇すれば、先物の金の価格も上昇します。
逆に、新しく大規模な金鉱山が発見されたり、金と同様の性質をもった安価な物質が発見されたりするなど、将来の金の需給が緩和されるニュースが出ると、先物の価格が下落します。
ただ持っているだけでは意味のない現物の金の価格も、先物価格の下落を見てやはり下落するでしょう
金融商品の場合は?
金融商品の場合、現物が将来を見越して価格形成されています。
株価は企業の将来の業績に対する思惑を反映しながら変動しますし、債券価格も将来の金利動向を予測しながら動きます。
つまり、現物価格が動く時には、同じ情報で先物価格も動くことになるのです。
金融商品の現物価格と先物価格唯一の違いは決済日だけでして、その現物価格と先物価格は、将来を予想しながら価格が動くもの同士なのです。
差金決済とは?
あるモノを「買う」という行為には、買ったモノを使うことを前提としている場合と、買ったモノの値段が上がったら転売して差益を得たいと思っている場合とがあります。
後者の典型的な例は株式取引です。
商品先物市場を利用するほとんどの人も動機は同じです。
「実際に取引している商品の現物を受け取る」ということはしません。
「差金決済」とは、このように商品の現物を受け取らずに決められた期日までに取引開始時と反対の売買をして、利益・損失を確定することです。
この差金決済によって損益を確定させた状態のことをいって「先物取引で儲けた」「損した」というのです。
空売りとは?
商品先物取引では売りポジションからの取引も行えます。
このことを、「空売り」といいます。
FXでも同じシステムがありますが、これはとても便利です。
通常、金融取引というのはまず取引対象となるものを買い、その後価格が変動してから売るというのが一般的です。
しかし、商品先物取引では、まず手元にないはずの商品の権利を証券会社から借りてそれを売り、価格が動いた時に買い戻してそれを返すというものです。
理屈としては難しいですが、慣れれば簡単にこなせます。
これによって、普通は購入する商品の価格が上昇した時でないと差益が発生しませんが、売り注文から入れば価格が下がった場合に差益が出るので、戦略の幅が広がるのです。
商品先物取引のメリット
在庫費用削減の場
商品先物取引のメリットとして、一般的にはあまり知られていない方法があります。
それが、「在庫費用削減の場」として利用する方法です。
最も多いのは、季節によって消費量が大きく異なる商品の場合です。
その象徴的な例として、灯油、ガソリンを挙げることができるでしょう。
現受け
商品先物取引の決済方法には「差金決済」と、もう一つ「現受け」といって「実際に取引している商品の現物を受け取る」という決済方法があります。
納会日(決済期限となる最終取引日)の後に取引している量の総代金(ガソリンなら50キロリットル分、トウモロコシなら100トン分)を払って実際の現物商品を受け取るというものです。
しかし、実際には、その商品で商売を行っている関係者や商社でなければ、この「現受け」を利用する投資家はほとんどいません
在庫費用削減としての商品先物取引
この「現受け」を利用する業者や商社メリットですが、それは、在庫費用削減となります。
その点を、灯油、ガソリンを例にとって詳しく見ていきましょう。
灯油は夏場と冬場では消費量が3~4倍違うといわれています。
そのようなわけで、需給の関係により、夏場は当然、冬場よりも灯油の価格が、安いと考えられますので、夏場に在庫を持って冬場に備えておけばいいかと言いますかというとそうは、行きません。
なぜなら、冬場に備えて夏場から在庫を持っていれば、備蓄タンクの建設費用、在庫の保有に伴ってランニングコストが増えるからです。
そこで、商品先物取引を利用するのです。
具体的には、消費が少ない夏場に商品先物市場で11~1月決済モノを買っておきます。
決済時期になって現物市場で安く灯油が手に入れば、買っていたものを手仕舞う(差金決済する)こともできますし、もし、寒冬や戦争など不測の事態が起こって灯油が足りないとなれば、そのまま受け取ることもできます。
需要期になって受け取った場合は、夏場に備蓄用のタンクを作る必要がなく、その建設費用や保有費用を削減できます。
また、燃油サーチャージ軽減の為に、航空会社が、需要期に向け、海外からガソリンを輸入して在庫削減を図るという方法もあります。
その場合も、海外で購入予約をした時に、商品先物取引で売っておけば、ガソリンが日本に着いた時に価格が下がったとしても安心です。
これは、備蓄対策とリスクヘッジを兼ねた方法といえるでしょう。
金利のメリット
他の商品先物取引のメリットとして、一般的に知られているとは思いますがが、他の金融商品である「株の信用取引」のような、金利負担がありません。
「株の信用取引」では、口座にあるお金よりも多くの金額を使った取引が可能ですが、その保証金に金利負担がかかります。
取引の際の負担が軽くて済むという事です。
短期間で大きく稼げる可能性があること
商品先物取引では多くの商品を取り扱いますが、その中には非常に価格変動が大きなものが数多くあります。
その中でも特に動きやすいのは、ガソリン、灯油、アルミニウムといったところでしょうか。
原油が高騰すると、ガソリンと灯油の価格変動を身をもって体験する方が多いでしょう。
これだけ価格がダイナミックに変動するというのは、変動が激しいと言われている株式市場の銘柄においてもなかなかお目にかかれません。
そういう意味では、大きな博打を打ちたいという方には向いている商品と言えます。
価格変動が激しい商品があるという事は、それだけ短期間で大きな稼ぎが期待できるという事です。
長期の取引が苦手という方には、この商品先物取引は向いていると言えるでしょう。
また、短期が向いていないという方は、価格の変動が、少ない商品を選べば良いのですが、その際に、自分にあった取引ができるだけのラインナップが、揃っているという点が魅力と言えます。
商品先物取引のデメリット
金融取引には、リスクは付きものです。
100%利益が得られるのであれば、誰も苦労はしません。
バブル崩壊前は実際、銀行に預けていれば、100%何のリスクもなくお金が増えるという認識でいた方も多いでしょう。
まさか銀行に倒産のリスクが訪れるとは夢にも思っていなかったはずです。
しかし、投資、金融取引というものには、絶対にこういったリスクがあるのです。
それは当然、商品先物取引にもあります。
しかも、レバレッジによって多額の取引が可能という事は、跳ね返ってくる額も非常に大きいという事になります。
例えば、口座に数十万円しかないのに、数百万円の損失を被ってしまうリスクがあるのです。
当然そうなれば借金生活がスタートします。
通常の取引であれば、元手がゼロになるリスクはあっても、マイナスになるリスクはありません。
この点は、商品先物取引の持つデメリットという事になるでしょう。
また、元本保証もありません。
それが何を意味するかというと、投資した資金がゼロとなり、戻ってこない可能性があるという事です。
資金が価格変動により減少し、証拠金が不足した場合は、追加しなくてはならなくなるケースもあります。
こういったリスクもしっかり頭に入れた上で、商品先物取引は行う必要があります。
特に、レバレッジのある取引は常にハイリスク・ハイリターンであるという事を頭に入れておかないと、取り返しのつかない事になりかねません。
最悪、口座にあるお金がなくなるだけ、と甘く考えていると、人生が狂う可能性だってあるのです。